スポーツにおけるアスリート保護
日本のスポーツ界では、指導者による体罰・虐待・ハラスメント(以下、「体罰等」と略)に関わる問題が発生しています。
昨年開催された東京2020オリンピック・パラリンピック大会後の日本のスポーツ界の今後の発展のためには、スポーツ界の将来を担う青少年が、指導者からの体罰等を受けることなく、安全に楽しくスポーツに参加できる環境を整備する必要があります。
ところが、日本における青少年スポーツの中心となってきた中学・高校の部活動では、「愛の鞭」論に基づき指導者による体罰が必要悪として認められる風潮がありました。その結果、2012年には、大阪市立桜宮高校において顧問教諭の体罰を苦にした生徒の自殺事件が発生しました。その翌年には、文部科学省が児童・生徒への教師による懲戒・体罰に関する解釈・運用の基準を示した通知を策定し、「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書」を策定しました。これらの通知、報告書により、教師による懲戒・体罰の基準が見直され、部活動における指導の在り方の指針が提示されました。また、同年には、JOC、日本体育協会(現日本スポーツ協会)ら5団体による「スポーツにおける暴力行為根絶宣言」も採択されました。さらに、近年、部活動顧問教諭の超過勤務の見直しも進められてきました。
これらの状況を踏まえ、このコーナーでは、アスリートの福祉を実現するための国際的な研究動向等を参照しつつ、スポーツ・インテグリティに関わる問題のうち、指導者による体罰等の問題に焦点を当て、日本における青少年スポーツの今後の在り方について情報発信していきたいと思います。
また、この問題に関しては、本研究所の設立発起人が2010年以来4度にわたり科学研究費補助金の助成を受けて研究してきた、イギリスにおける指導者による18歳未満の子どもに対する体罰・虐待の防止制度であるチャイルド・プロテクション(Child Protection)の制度についても考察していきます。